こんなお悩みに答えます。
こんにちは。家づくりを経験した「とある東北人」です。
「床暖房」って、家づくりで誰しも一度は考えたことがありますよね…?
特に、私は「寒冷地」に住んでいるので、かなり真剣に考えていました…笑。
で、ネットで調べてみると、
のような、「床暖房とエアコンを比較したサイト」がヒットするのですが、よく見ると「Rinnai」が運営してたりするわけですね…笑。
もちろん、この手のサイトは、
・情報が偏っている
・学術的な根拠が不明
・「床暖房が良い」という結論ありき
なので、まったく参考になりません。
また、個人の体験談をもとにしたサイトやブログもヒットしますが、
・地域が異なる(寒冷地・温暖地)
・住宅の断熱性・気密性が異なる
・生活スタイルが異なる
・体感温度に個人差がある
ため、単純な比較はできないと思いました。
なので、私は複数の書籍や論文にあたって、できるだけ中立的な情報を探してみたのです。
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本記事では、そんな私の経験をもとに、「一戸建てマイホームに床暖房は必要かどうか?」ということについてお話をしたいと思います。
一戸建てマイホームに床暖房は必要かどうか?
「一戸建てマイホームに床暖房は必要かどうか?」ということですが、わが家では採用しませんでした。
その主な理由は、下記の3つです。
1. エアコンより光熱費がかかる
2. エアコンより初期費用がかかる
3. エアコンでも足元は寒くない
1つずつ、説明します。
1. エアコンより光熱費がかかる
1つ目の理由は、「エアコンより光熱費がかかる」からです。
ただ、ここで具体的な「光熱費がいくらか?」を持ち出すのはナンセンスです。
地域(寒冷地・温暖地)や、住宅の断熱性・気密性、生活スタイルなどがまったく異なるため、単純な比較はできません。
論理的に比較できるポイントは、
・ヒートポンプ
・床下損失
です。
まず、エアコンというのは「ヒートポンプ」という技術を用いて熱を得ています。
ヒートポンプとは少ない投入エネルギーで、空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用する技術のことです。
(財)ヒートポンプ・蓄熱センター
すごく簡単にいえば、「1の電力」を使うだけで「2や3の熱エネルギー」を得ることができるのです。
一方、床暖房は電気やガスで温めるのですが、これらは「1の電力」や「1のガス」で「1の熱エネルギー」しか生み出せないのです。
※正確には、エアコンに使われる電気は発電所で生み出されているので、それも考える必要があります(1次エネルギー換算)。しかし、それを考慮しても、発電所で燃やした燃料の約2倍の熱を移動させることができます。(出典:エコハウスのウソ)
よって、電気やガスで温める床暖房は、エネルギー効率ではエアコンに勝てず、そのぶん光熱費がかかってしまうわけです。
しかし、床暖房には「ヒートポンプを用いて水を温めるタイプ」もあります。この場合、「エアコンと光熱費が同じ」にはならないのでしょうか?
同じにはなりません。床暖房には「床下損失」という弱点があるからです。
床暖房は「放熱パネル」を床に設置するため、パネルの下側や配管から熱が逃げてしまうのです。これを「床下損失」といいます。
※この論文(989KB)の表3を参照。床暖房には「床下損失」が計上されていますが、エアコンにはありません。
つまり、この「床下損失」の分だけ、床暖房は光熱費がかかってしまうのです。
2. エアコンより初期費用がかかる
2つ目の理由は、「床暖房はエアコンよりも初期費用がかかる」からです。
価格.comや床暖房の業者のサイトをいくつか見てみると、初期費用は、
・エアコン(通常):4〜6万円
・エアコン(寒冷地対応):10〜15万円
・床暖房/電気式(6〜10畳):最低30〜40万円
・床暖房/温水式(6〜10畳):最低50〜60万円
だいたいこんな感じではないかと思います。
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例えば、高断熱・高気密の30〜40坪くらいの家ならば、エアコンが2台もあれば家全体を十分に暖められます。
しかし、6〜10畳程度の床暖房では、リビングだけならまだしも、家全体を温めることは困難で、結局エアコンや他の暖房機を併用することになります。
床暖房の加熱能力は1㎡当り100〜200W程度。放熱面の敷設率(通常60〜70%)を考えると、10畳(18.6㎡)では2000W以下の加熱量しかない。強制対流方式のエアコンやガス・石油ファンヒーターが6000W程度あることと比べると、3分の1程度の能力しかないことになる。
エコハウスのウソ
3. エアコンでも足元は寒くない
3つ目の理由は、「エアコンでも足元は寒くない」からです。
床暖房を紹介しているサイトでは、必ずといっていいほど
エアコンは足元が寒い
と主張していますが、果たして本当でしょうか?
確かに、床暖房の方がエアコンよりも足元は暖かいでしょう。
しかし、「エアコンは足元が寒い」とはいえません。
この論文(989KB)では、人体からの放熱量が同じとみなせる条件下で、「エアコンと床暖房の比較実験」をしています。
実験では、部屋の断熱性能が「次世代省エネルギー基準」の場合、つまり「高断熱・高気密」である場合、
▼足元(床)の温度
・床暖房:26〜27℃
・エアコン:22〜25℃
▼壁の温度
・床暖房:21〜22℃
・エアコン:21〜24℃
▼空気の温度
・床暖房:20〜23℃
・エアコン:24〜26℃
というデータが出ており、「エアコンは足元が寒い」とは到底いえません。
※なお、「エアコンは足元が寒い」などといって床暖房を紹介しているサイトのデータなどは、「床暖房に有利」なように設定されており、中立ではないケースがかなり多いです。
床暖房とエアコンの項目別の比較
いままで、「光熱費」「初期費用」「体感温度」の3つについて解説してきましたが、それ以外のポイントはどうなのでしょうか?
ここからは、床暖房とエアコンで比較される、
・1. 温度調節
・2. 空気環境
・3. 乾燥
・4. 耐用年数
・5. 修理費用
という5つのポイントについて、見ていきたいと思います。
1. 温度調節
温度調節(の早さ)については、エアコンの方が優れています。
この論文(868KB)によれば、室温を9℃から22℃に暖めるまでにかかる時間は、
・エアコン:35分
・床暖房:2時間10分
となっています。
また、ダイキンの公式サイトでも、
すぐ暖めるときにはエアコン暖房と同時運転がおすすめ
と説明があります。
つまり、温度調節の早さはエアコンに軍配があがります。
2. 空気環境
「床暖房はホコリを舞い上げないから空気がきれい」と言われています。
確かに、この論文(989KB)では、室内の空気の流れは、
・床暖房:0.1m/s
・エアコン:〜0.4m/s
とエアコンの方が風速が大きくなっています。
このため、「エアコンではホコリが舞い上がって…」というのは、否定できません。
では、夏はどうでしょうか?
「床冷房」などという設備も出ているみたいですが、ほとんどの人は「エアコンによる冷房」を使っているはずです。
だとすれば、夏のホコリの舞い上がりは防げません。
さらに、床暖房によって床材から出る「揮発性有機化合物(VOC)」は、ホコリ以上に問題である可能性があります。
VOCについて、日本床暖房工業会のサイトには、
Q. シックハウス症候群になることはないの?
A. シックハウス症候群は建材から発生する揮発性有機化合物(VOC)によって発症すると言われています。VOCの主な成分はホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどです。これらの化学物質は温度が高くなると揮発量が増えます。温水床暖房ご使用時の床表面温度は25℃から30℃程度です。空調のない夏期の温度とあまり差がないため、温水床暖房だからシックハウス症候群になることは少ないと思われますが、温水床暖房を設置後初期は特にこまめに換気されることをお奨めします。
とあります。
つまり、床暖房は、必ずしも「空気がきれい」とはいえないのです。
3. 乾燥
乾燥の程度は、床暖房・エアコンとも同じだと思われます。
この論文(868KB)の実験では、加熱開始直後の「相対湿度」は「エアコン < 床暖房」であるものの、3時間後以降は30%で等しくなっています。
※相対湿度:いわゆる一般的に使われている「湿度」のこと。1kgの乾燥空気がその温度で「最大吸収」できる水蒸気の重さのうち、実際に含まれている水蒸気の重さの割合。単位は「%」。
また、「絶対湿度」も、床暖房がエアコンをやや上回るものの、±1程度の差でしかありません。
※絶対湿度:1kgの乾燥空気に含まれている水蒸気の重さ。単位は「g/kg」。
ちなみに、石油ファンヒーターでは、相対湿度・絶対湿度ともに高くなっています。
これは、石油が燃焼することで水蒸気が発生するからです。
以上をまとめると、
石油ファンヒーターに比べれば、床暖房・エアコンともに乾燥するが、床暖房とエアコンの間では乾燥の程度は同じ
と考えられます。
※なお、エアコンの風が直接当たるのが気になるのならば、配置を工夫すれば済む話です。
4. 耐用年数
Rinnaiの運営する「床暖房で快適.com」には次のようにあります。
床暖房に利用されている温水パイプは耐用年数が30年以上使用できることが確認できています。ただし、お湯を循環させる熱源機は一般ガス器具と同程度の耐用年数となります。
つまり、「温水パイプは30年持つけど、熱源機は一般ガス器具と同程度」とのこと。
では、一般ガス器具の耐用年数はどれくらいなのでしょうか?
同じRinnaiの公式サイトでは、
ガス給湯器の点検・取替え目安は10年です
とあります。なので、床暖房の熱源機の耐用年数は「10年」と考えて良さそうです。
一方、エアコンの耐用年数は何年なのでしょうか?
パナソニック公式サイトには、
買い替えの目安は購入から約10年
とあります。
よって、床暖房(熱源機)もエアコンも耐用年数は「10年」で同じくらいと考えられます。
※使い方によっては長くも短くもなるでしょうが…。
5. 修理費用
修理費用は、いくつかのサイトを見ると、
・床暖房(熱源機):20〜30万円
・床暖房(不凍液の交換やメンテ):5万円前後
・床暖房(点検):5,000円
・エアコン(修理):1万円〜数万円
・エアコン(点検):5,000円前後
くらいの感じですね。
断然エアコンの方が安いです。
というか、エアコンは修理するよりも買い替えた方が安い場合もありえますね…笑。
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床暖房とエアコンの項目別の比較表
床暖房とエアコンの「項目別の比較」をまとめると以下のとおりです。
床暖房 | エアコン | |
---|---|---|
光熱費 | ・ヒートポンプでない:エネルギー効率が悪く光熱費がかかる ・ヒートポンプ式:床下損失の分だけ光熱費がかかる |
・床暖房より安い |
初期費用 | ・電気式(6〜10畳):最低30〜40万円 ・温水式(6〜10畳):最低50〜60万円 |
・通常:4〜6万円 ・寒冷地対応:10〜15万円 |
体感温度 | ・エアコンとそこまで変わらないのでは? | ・足元が寒いということはない |
温度調節 | ・遅い | ・早い |
空気環境 | ・ホコリは舞い上がらない ・揮発性の物質が心配 |
・ホコリは舞い上がる |
乾燥 | ・石油ヒーターより乾燥する ・エアコンと同じ |
・石油ヒーターより乾燥する ・床暖房と同じ |
耐用年数 | ・温水パイプ(30年) ・熱源機(10年) |
・10年 |
修理費用 | ・熱源機:20〜30万円 ・不凍液の交換やメンテ:5万円前後 ・点検:5,000円 |
・修理:1万円〜数万円 ・点検:5,000円前後 ※買い替えの方が安い場合もある |
こう比較してみると「エアコン圧勝」な感じですね…笑。
Q. 床暖房に向く人って?
床暖房に向く人は、
・室温の温度ムラをなくしたい
・音や風が気になる
・暖房設備を隠したい
という人で、かつ、
・初期費用・光熱費・修理費などを気にしない
・温度調節が遅くてもよい
という人だと思われます。
ただ、床下にエアコンを設置する「床下暖房」という方法ならば、
・温度ムラをなくせる
・音や風を抑えられる
・暖房設備を隠せる
・初期費用、光熱費も安い(=エアコン)
・温度調節も早い(=エアコン)
ため、床暖房の存在意義がほとんどなくなってしまう気もします…。
床暖房に対する専門家の意見
本記事の最後に、床暖房に対する「専門家の意見」をまとめてみました。
いずれも、「高断熱・高気密住宅」に関するプロの方ばかりです。
西方里見さん
以下、「最高の断熱・エコ住宅をつくる方法」より引用。
(中略)床暖房は、輻射熱を利用しているものの、コスト高から限られた床面積にしか採用できず、全室暖房するには床面を高温にせざるを得ません。しかし、住宅では床に座ったり、寝そべったりで、体が高温の床面に直接触れている状態となっていて、低温火傷や、リウマチなど関節にダメージが生じる可能性があります。かといって、人体にダメージがない25℃以下にすると熱量が少なく、全室暖房にはなりません。そのため、床暖房はあくまで寒い家の補助暖房と考えたほうがよいのです。
長所は、個別式の床暖房と同様で、さらに熱損失が少ない住宅では床面の温度を低くすることができます。ただし、窓下のコールドドラフトが解消しにくいことから、パネルヒーターを併用することが多いようです。短所は、イニシャルコストがかかるのと、建築物本体との接合部も多くメンテナンスが必要という点です。また、温水式では水もれなどを起こす場合があります。性能がよい住宅では、全体のバランスを考える床暖房システムは必要ないでしょう。
前真之さん
以下、「エコハウスのウソ」より引用。
モダンリビングの必須アイテムとも言えるこの床暖房、実は弱点をいくつも持っている。
まず、加熱能力が小さいために立ち上がりに時間がかかること。床表面温度を上げれば加熱量を増やせるが、身体に直接触れる床暖房では低温やけどのリスクがあるので限界がある。
結局、床暖房の加熱能力は1㎡当り100〜200W程度。放熱面の敷設率(通常60〜70%)を考えると、10畳(18.6㎡)では2000W以下の加熱量しかない。強制対流方式のエアコンやガス・石油ファンヒーターが6000W程度あることと比べると、3分の1程度の能力しかないことになる。
さらに、床暖房は放熱パネル下面や配管からの熱ロスが大きく、また熱源効率に限界があり、エネルギー効率が低くなりがちである。省エネに床暖房を行うには、高効率な熱源や放熱パネルの採用・床下や配管の断熱強化など、注意深い設計と施工が不可欠となる。
鎌田紀彦さん
以下、「燃費半分で暮らす家」より引用。
床全体からの輻射熱で、比較的低い室温で快適性が得られるといわれますが、実際には20℃位は必要です。室温を20℃に保とうとすると、床表面温度は30℃位にする必要があるようで、これで床に座ったり寝転んだりすると、長い時間には、きわめて不快に感じてしまいます。窓からの冷風なども防げないため、高断熱住宅では、快適性ではパネル暖房に一歩譲ります。
松尾和也さん
以下、「ホントは安いエコハウス」より引用。
次世代省エネ基準ではおおよそ3〜4℃くらいの部屋内上下温度差は生じます。人間の生理現象から考えた場合の足元の理想的な温度は頭部温度+4℃であるのに対し、7℃も乖離してしまうことになります。(中略)だからといって床暖房が良いのかというと、一概にそうとは言い切れません。床暖房は広い面積に敷設するとイニシャルコストが非常に高価になり、かつ無垢のフローリングが使えないことも多いです。
専門家は床暖房に否定的な意見が多い
いかがでしょうか?
どの専門家の方も、床暖房には否定的な意見が多いですね…笑。
本当は、これらの「専門家の意見」を本記事の最初にご紹介しても良かったのですが、なんか「権威」でねじ伏せてしまうような気がしたので、最後に持ってきたのでした。
おそらく、専門家の中には、床暖房に肯定的な意見の人もいると思うのですが、私は見つけられませんでした…。
※もし、「この専門家は床暖房に肯定的な意見を言っている」という人がいたら、ご連絡ください(拝)
【まとめ】家づくりで失敗しないために
本記事では、「一戸建てマイホームに床暖房は必要かどうか?」という話をしてきました。
私は基本的に「床暖房は必要ない」と思います。
その理由は、
・エアコンより光熱費がかかる
・エアコンより初期費用がかかる
・エアコンでも足元は寒くない
・その他もエアコンのメリットが大きい
からです。
場合によっては、床下にエアコンを入れる「床下暖房」を採用してみたり、どうしても「こだわり」がある人は床暖房でもよいでしょう。
なお、暖房以外にも「家づくりで大切なポイント」がいくつかあります。
詳しくは、下記の記事を参考にしてください。
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